「おせーぞ、バッツ」

ようやく姿を現したバッツにファリスは腰に手を当て、そう声を上げる。それにバッツは頬を掻きながら苦笑した。

「あはは、ごめんごめん」

そう謝ってから、バッツはことりと小首を傾げ口を開く。

「さて、……それじゃあ、みんな、これからどうする?」

その言葉に、全員がすっと真剣な表情になり、バッツを見返した。

「決まってっだろ、乗りかかった船だ。最後まで付き合うさ、……クリスタルを守りたいとも、思うしな」

ファリスの言葉に、レナとガラフも頷く。

「えぇ、お父様の言う通り、クリスタルを守らなければ。……バッツは?」

少々不安気に問いかけるレナに、バッツは、ふっと安心させるように微笑する。

「俺も、その想いは同じだよ。……ただ、これは、簡単に蹴りがつくものじゃないだろう。そうなると……そりなりに、やっておかなければならないこと、あるんじゃないか? ファリスの海賊たちのことや、レナの城のこと、ガラフの記憶のこと……それらはどうする? ……それに、どうやって水のクリスタルのあるウォルスに行くか、それも考えないと……」

自分の考えを口にしたバッツに、3人は揃って考える素振りを見せたが、ガラフはすぐに顔を上げる。

「わしは……わしのする事は変わらんぞ。クリスタルを守るのじゃ。……それに、何となくじゃが、わしが風の神殿に行かなければならないと思ったのは、クリスタルを守るためだったような気がするのだ。だからこそ、わしはクリスタルを守る事が、わしの記憶にも関係してくると思っておる」

迷いなくそう言ったガラフに、バッツはそっか、と微笑して頷く。次に口を開いたのはファリスだった。

「……そう、だな。……とりあえず、風が止まって船が出せなくなった以上、海賊も休業だ。俺らの船だけ動いたって、獲物がいねぇんじゃ商売になんねぇからな。アジトを空に訳にいかねぇし、なにより、さすがにあいつらまで巻き込めねぇ、だから、あいつらはアジトに置いてく。……まぁ、その前に我侭の侘びにトゥールの酒場に連れてってやりたいかな」

頬を掻きながら、そう言ったファリスに、すっと顔を上げたレナが続けて口を開く。

「私は……城には戻らない。黙って出てきちゃったから、今戻ったらしばらく足止めされそうだもの。その代わり、神殿にいる大臣に伝言を頼もうと思うの。それと、ウォルスには船で水門を通って行くのが1番早いわ。……今は、魔物が出るっていうことで閉まっているけど、トゥールに水門の鍵を持ってる人がいるから、彼から鍵を借りれば……」

ウォルスに行くことができる、と言ったレナに全員が頷く、と、ファリスはバッツに視線を向ける。

「……で、そう言うバッツはどうなんだ?」
「え?俺?」

右手で自分自身を指差し、小首を傾げてみせるバッツにファリスは頷く、それを見て、バッツは頭を掻いた。

「ん~……っと、俺は元々旅人だから、目的地が出来たくらいでそれ程影響もやっておかないといけないこともないんだけど……あ、でもボコ、迎えに行かないと」

遅くなっちゃったから、心配してるかもなぁ、と呟きつつ、バッツは口を開いた。

「じゃあ、とりあえず、まずは神殿に行って、その後にファリスのアジトに寄ってからトゥールへ、ってところかな」

まぁ、ファリスのアジトに寄るときちょっと途中で降ろしてもらえると俺としては助かるな、と付け足して、簡単にこれからの予定を口にしたバッツに、全員頷くことで肯定する。

「そうじゃな。……にしてもバッツがそんな風にちゃんと予定を立てるとは思わなかったぞい」
「何か失礼だなぁ。……予定って結構大事なんだぞ? 大まかにでもどこに行って何するか決めておくのとおかないとではかなり違う。まぁ、予定をびっしりしっかり立てすぎると、今度はその予定に縛られちゃうから、大まかに決めておくのが上手く楽しく旅するコツかな」

ぴっと人差し指を立てて、そう笑うバッツに、ファリスは親指で後ろを指した。

「ま、とりあえず、神殿に入ろうぜ、神殿にいる奴だったら、癒しの魔法使える奴いるだろうし」

ファリスの言葉に、バッツも頷く。

「そうだな、レナもガラフも結構怪我してるし、ここでいつまでもこうしてる訳にいかないしね。……それじゃあ、行こうか」

「レナ様っ! よくぞご無事で」
「陛下は御無事でしたか?!」

神殿内の部屋に入ると、結界内に避難していた人々がレナに殺到した。口々に紡がれる言葉はレナの無事を喜ぶものと、タイクーン王の安否を問うもの。それらにレナは一瞬目を伏せてから、クリスタルルームでの出来事を、……クリスタルが砕け散っていたこと、タイクーン王が行方不明になった事を語った。

「……そんな、陛下が……」
「風のクリスタルが砕け散るなんて……」

レナの話に、呆然とする人々を見回し、レナははっきりとした口調で言葉を続けた。

「私は、この者たちと共に残りのクリスタルを守るため、ウォルスとカルナックに向かいます。……貴方達はこのことを城に伝えてください、しばらく城を空けます、と」

その言葉に、大臣が重々しく頷いた。

「分かりました。レナ様、どうかお気をつけて」
「えぇ、ありがとう」

そういって頭を下げる大臣にレナは微笑する。そこに神官の1人が声を上げた。

「レナ様、魔物との戦闘で負った傷を癒して行って下さい。祝福の水はあちらにございます」

その言葉に、レナは一瞬目を見開いてから、ふわり、と笑った。

「ありがとう、では使わせていただきますね」
「後ろのお仲間の方々もどうぞお使いください」

礼を言って、祝福の水が入っている壷の元へと歩いていくレナから、彼女の後ろにいたバッツたち3人に視線を移すと神官はそう口を開いた。その言葉に、じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかの、と呟きつつガラフがレナの後に続く。
……後に残ったのはバッツとファリス。

「ファリスは行かないのか?」

レナとガラフを指差し、そう問うバッツに、ファリスはちらりとレナたちの方に視線をやってからバッツを見る。

「……そーゆーバッツは行かなくていいのか?」

ファリスの言葉にバッツは笑って口を開く。

「あぁ、俺はいいよ。あんまりここの祝福の水を使うのも悪いし、こんなのほっとけば治るからね」

にこり、と笑ってそう言うバッツにファリスの眉がつり上がり、次の瞬間、ガッと襟元を掴まれる。突然の事にバッツは目を丸くしてファリスと見返した。

「ふぁ、ファリス……?」
「馬鹿かお前はっっ!! この中で1番深手負ってるのはお前だろーがっ! ……ったく、アホな事言ってんじゃねぇっ、さっさと来いっ!!」

きょとん、と自分を見るバッツを思い切り怒鳴りつけると、バッツの左手首を掴み、問答無用とばかりに、レナたちの方へと引っ張っていく。

「ファリス、バッツ、2人ともどうしたの?」
「どーしたもこーしたも、意地っ張りな馬鹿1人連れてきただけだ。ほら、観念して左手開け、血、止まってねぇんだろ。手の中に隠し持った布に血、吸わせて隠したつもりだろーが、 この俺にはバレバレなんだよっ!」

ファリスの言葉にレナとガラフは目を見開き、バッツを見る。バッツは、図星だったらしく、 うっ、と言葉に詰まり、気まずげに視線を彷徨わせた。

「バッツ、本当なのっ?」

心配そうにバッツに詰め寄るレナに、バッツは反射的に後ろに下がろうとするが、ファリスに左手首を掴まれているため、それができず、困ったように眉を下げる。

「だ、大丈夫だって、ファリスが大げさなだけだから、……だからそんな顔するなって」
「だったら、さっさと手ぇ開いて見せろっつーの。ほ・ん・と・う・に、大したことねーならなっ」

じと目でバッツを見るファリスに、バッツはしばし視線を彷徨わせたままだったが、やがて、観念したようにため息を落とすと、そろそろと手を開いた。と同時、紅く血に染まった布が床に落ちる。
そして、その上にぽたりと落ちる紅い雫。

「……ちゃんと隠せてたと思ったのにな。どうして気づいた?」

困ったように苦笑して右手で頬を掻くバッツにファリスは憮然として答える。

「気づくも何も、あんな刃物みてぇな羽、思い切り掴んだらこうなることくらい予想つくっての。あれ倒した後、さり気なく左手隠してたしな。……それよりも、手、貸せ」

そう言ってファリスはバッツの左手をぐいっと引き、手の平を上向かせると、そこに柄杓ですくった祝福の水を思い切りぶっ掛ける。と、傷に沁みるらしい、バッツが痛みに声を上げた。

「いっ! ……ファリス、頼むからもうちょい優しく……そうでなかったら、自分でやらせて……痛っ!」
「やなこった。つーか、ワザとやってんだよ。こんな傷隠そうとする馬鹿にはいい薬だっ!」

ファリスはそう吐き捨てると2杯目の水を乱暴にバッツの手にかける。左手の上を流れる水が、血の赤と混じりつつも、バッツの負った傷を癒していく、3杯目の祝福の水をかけ終わる頃には、バッツの左手はうっすらと傷跡が残る程度にまで回復した。

「……ん、こんなもんでいいだろ」

治り具合を確認するように傷跡を指でなぞり、そう言うと、ファリスはようやくバッツの左手を開放した。

「……ファリスの乱暴者」
「自業自得だ」

ぱたぱたと左手を振りながら、右手で痛みによって生理的に浮かんだ涙を拭い、ぼそっと言ったバッツの言葉に、ファリスはぴしゃりとそう返したのだった。

「あ、そこ。そこで降ろしてもらえるか?」

シルドラという名の海竜が引く船の上、バッツは見えた海岸を指差した。そこはファリスたち海賊のアジトの南に位置する所で、目印のなりそうな物は何もない。

「……本当にここでいいのか?」
「あぁ、この辺からもうちょい南に行けば約束してた森に着く……はずだ」
「…………ホントに大丈夫なのかよ」

少々どころか、かなり頼りないバッツの言葉に、ファリスは不安気な顔をする。それをさらりと無視して、バッツは岸へと着けられた船から飛び降りた。

「あっ、おいっ!」
「じゃあ、みんなは先にファリスのアジトに行っててくれ。俺はボコといっしょにそっちに行くから」

そう言って船に背を向けたバッツに、レナとガラフが慌てて船を飛び降りる。

「待ってよ、バッツ」
「わしらも行くぞ」

そう言って、駆け寄ってくる2人姿に、バッツは振り返り、きょとんとした顔を見せる。

「……いいのか? 2人には何の関わりもない用事だぞ?」

その言葉にレナとガラフが笑って頷く。

「えぇ、分かってるわ。でも、いっしょに行きたいの。……だめかしら?」

小首を傾げ、少々不安気な色を瞳に乗せて、そう問うレナに、バッツは苦笑する。

「そのまま、船にいた方が楽なのに。物好きだなぁ。……でも、ありがと」

海のように深い蒼の瞳を細め、ふわりとやわらかく微笑して礼を言ったバッツに、 さっ、とレナの頬に朱が走る。

「……レナ? どうかした?」

きょとん、と赤くなったレナを見るバッツに、レナは慌てたように口を開いた。

「え? う、うぅん、何でもない。それよりっ、早くボコちゃんを迎えに行きましょう?」
「ん、そうだな。じゃあ行こうか」
「……で、どこに行くんだ?」

そう言ったバッツに真後ろからそんな声が聞こえ、バッツは振り返りながら口を開こうとしたところで、声の主を見、目を見開いた

「まずは向こうの……って、ファリス?! 何でここに」

驚いたように自分を見るバッツにファリスは飄々と答える。

「何でって、一緒に行くからに決まってるだろ。アジトでお前らが来るのを待ってんのは面倒だからな」
「……面倒って、……普通、一緒に行くほうが面倒なんじゃ……」
「うるせぇな。俺は暇なのは嫌いなんだよ。それに、もう船はアジトに行ったぞ」

ファリスの言葉に、視線を移すと、たしかに、船は既に沖へと動き出している。それにバッツは少し目を丸くしてから苦笑した。

「いつの間に……まぁ、いっか。じゃ、今度こそ行こう」

「さて、と。この辺でいいか……」

先程、4人が降りた所から南に位置する森の中を少し歩いたところで、バッツは小さく呟くと足を止めた。

「この森で、どーやって鳥1羽探すんだ?」

バッツが足を止めたことで、先程から気になっていたのだろう、ファリスがそう問いかける。それにバッツは笑って答えた。

「探すんじゃなくて、呼ぶんだよ。こうやって、ね」

そう言うと、バッツはおもむろに指を2本軽く銜える。

ピィーーーッ

次の瞬間、高く澄んだ音が辺りに響いた。

「なるほど、口笛か」

納得したように呟くファリスに、バッツは銜えていた指を離すと、にこりと笑う。

「うん、チョコボは耳がいいからね。これが1番手っ取り早いんだ」

あとはボコが来るのを待つだけ、と言って木の根元に腰を下ろすバッツに、他の3人も腰を降ろす。

「そういえば、バッツは何で旅してるんだ?」

ふと、思い浮かんだのだろう。ふいに、本当にふいにファリスがそう問いかける。その問いにバッツはきょとんとファリスを見返してから、顎に手をやる。

「……なんで、か。……そうだな。親父の遺言だからだとか、……小さい頃からずっと旅してたからとか、行った事のないところを見てみたいとか、理由を挙げようと思えば色々あるけど……」
「けど?」

問い返したファリスに、バッツはにこりと笑みを向けた。

「ファリスはさ、何で海賊してるの?」
「え? ……あ~っと……」

突然の問いに、ファリスは腕を組み、考え込む。その様子にバッツは笑みを浮かべたまま口を開いた。

「ファリスにもいくつか理由、あると思うけど、どれも理由の1つであって、決定的な理由じゃないでしょ? ……つまりはそーゆーこと。 “そうしているのが自分にとって自然なことだから” だから俺は旅人してるし、ファリスは海賊をしてるんじゃないかな。……違う?」

こてん、と小首を傾げ、そう問いかけるバッツに、ファリスは呆気に取られた顔をするが、 すぐに苦笑する。

「それが自然なことだから、か。……確かに、バッツの言う通りだな」

頭を掻きながら、そう口を開いたファリスにバッツは笑い返した。

それからしばらく、他愛のない会話をしていたバッツだったが、ふと顔を上げると辺りを見回した。

「バッツ、どうかした?」

その様子にレナが声をかけると、バッツは眉根を寄せ、呟くように口を開く。

「遅い、な」
「え?」
「ボコ、いつもなら、もうとっくに来てもいいはずなのに……どうしたんだろう」

少し不安気な色を瞳に乗せ、呟くバッツに、レナとファリスは顔を見合わせる。

「さっきの合図を聞き逃がした、ということはないのか?」

ガラフの言葉に、バッツは首を横に振る。

「それはない。ボコなら、そんなことはないんだ、絶対に。……もしかして、まだ、洞窟の入り口で待ってるのか?」

戻ってくるのが遅かったら、この森で待っててくれと言い、実際にこんなにも遅くなってしまったのだから、てっきりボコはここにいるだろうと思っていた。
しかし、意外と心配性な相棒のことだ。ずっとそのまま、洞窟の入り口で待ってていたとしてもおかしくない

……それどころか…………

考えたくない想像をバッツは頭を振ることで追い出すと、音もなく立ち上がり、口を開いた。

「……ちょっと、洞窟の所まで行ってみよう。ボコ、まだそこにいるのかもしれない」

何か、嫌な予感が、した。

海賊のアジトへと続く洞窟へと足を運んだ4人だったが、そこにも探していた姿はない。地震によって、アジトと繋がってしまった洞窟にファリスが興味深そうに近くを見て回る中、バッツは不安気に眉を寄せた。

「ボコ、ここにもいないなんて……一体、どこに行ったんだ」

そう呟いたその時、ファリスは不意に声を上げた。

「バッツ、ちょっと来てみろ」
「ファリス? どうしたんだ」

ファリスの呼び声にバッツが足を向けると、ファリスは洞窟の入り口の地面を指差した。

「これ、足跡じゃねぇか?」

見れば、そこには微かにではあったが、確かにチョコボのものと思われる足跡があり、バッツは軽く目を見開いた。

「この足跡、洞窟に向かってる。もしかして、ボコちゃん、私たちの後を追って洞窟に入ったのかしら……?」

バッツの隣で共にいるファリスの指した足跡を見たレナがそう呟くと同時、ギリッ、と唇を噛んでいたバッツがダッと駆け出した。

「あのバカっ!! 何のために置いてったと思ってるんだっ!!」
「バッツ! 待てって」

洞窟内に駆け込もうとしたバッツを、ファリスが寸でのところで捕まえる。

「っっ、離せファリスっ!」

焦りと不安で揺れた瞳で睨み付けたバッツに、ファリスは冷静に言葉を返す。

「落ち着け、魔物出るんだろ? だったら1人で突っ走るな」

ファリスの言葉に、魔物が出るから慌ててるんだ、という言葉が喉元まで出掛かるが、その言葉は自分を心配してのことだというのが、否応なく感じ取れ、バッツは俯き、焦る心を押し込めると、小さく頷いた。

***

ランプに火を灯し、4人で洞窟へと足を踏み入れる。
無言のまま進み、襲ってきた魔物を何度か退けた頃、ランプの光によって照らされた地面に、ふと見えた黄色のモノ。それにバッツは目を見開き、その場にしゃがみ込み、それを拾う。

「バッツ、どうしたんじゃ?」

突然のバッツの行動に、ガラフが声をかけるが、バッツは無言のまま、じっと手元を見つめ続ける。

「……バッツ?」

一体どうしたのかと、気遣わし気にレナは声を掛ける。それと同時、ぎり……とバッツの手が強く握り締められた。ぎゅっと手を握りしめたまま、バッツは立ち上がると手に持っていたランプをファリスに向かって放り投げる。

「おわっ?!」

それを慌ててファリスが受け止める。

「何すんだよ! あぶねーだろーがっ!!」

怒鳴りつけるファリスに、バッツはすっ、と視線を向けると静かに口を開いた。

「……ごめん、先に謝っとく」

「は? 先に……?」

訝し気な声を出すファリスにバッツは背を向ける。ギリっと、強く強く手が握り締められた。

「……俺、先行くから」
「え? ……あっ、おいっっ! ……って!」

静かに、しかし、はっきりと宣言すると、バッツはダッと駆け出した。反射的にファリスが静止の声を上げかけたその時、火の光に気づいたのか、それとも、先程のファリスの怒鳴り声で気づいたのか、前方からスティールバットとデアロがやってくる。しかし、バッツは戦闘態勢どころか、剣すら抜かず、まるでそれらが目に入っていないかのように、走り続ける。そんなバッツに当然のことながら、魔物たちは襲い掛かった。

「あぶないっ!」

思わず、レナが声を上げる。しかし、それは杞憂だった。空中からのスティールバットの攻撃を身を屈めることで避け、次の瞬間、たんっと跳躍し、振り下ろされたデアロの一撃を避ける。そして、そのままデアロを踏みつけ、駆けていった。

「……すっげ、丸っきり眼中になしかよ」

一連の出来事に、思わず、ファリスはそう呟いた。それと同時、魔物がこちらを向き、3人はそれぞれ戦闘の構えを取る。

「それじゃあ、バッツが突っ走ってるし、さっさと倒して追いかけるぞ」

ファリスの言葉に、レナとガラフは大きく頷く。

「えぇ」
「分かってるぞい」

2人の返事を聞き、口の端に笑みを浮かべると、ファリスは強く地を蹴った。

現れる魔物の攻撃を避け、そのまま無視してバッツは走り続ける。
自分に気づいて集まってきた魔物は、きっとそのまま、自分の後を追ってくる3人が戦う羽目になるのだろうと、頭の片隅で思う。いつもより格段に多い魔物に遭遇するであろう3人に対し、申し訳ないという気持ちがない訳ではなかったが、だからといって、一々魔物を戦う時間すら、今のバッツには惜しいものだった。
手が白くなる程、強く手を握り締める。
その手の中に覗き見えるのは先程拾った一枚の羽。
鮮やかな黄のそれは間違いなく彼の大切な相棒のものだ。それが分かっているからこそ、 バッツの心は焦り、不安が先走る。

「ボコっ! どこだっ! いるなら返事しろっっ」

走りながらボコの姿を探し、声を上げる。その声に反応して出てくるのは、この洞窟を縄張りとする魔物達。

「お前たちに用はないんだよっ!」

そう吐き捨てると、バッツは襲い掛かってくる魔物の攻撃を全て避け、そのまま走り続ける。

「……ボコ、無事だよな? ……頼むから、頼むから無事でいてっ」

不安で揺れる瞳で、バッツはそう、祈るように呟いた。そうして、そろそろと、握り締めた手を開く。手の中にある黄の羽、本来ならば全体が鮮やかな黄であるはずのそれ。しかし、バッツの手の中にある羽は約半分が赤黒く染まっていた。
それが意味するものは1つしかない。
魔物に……襲われたのだ。ぎり、と唇をかみ締める。

「父さんみたいに、いなくなったら許さないからなっ!」

***

洞窟を探し回ったバッツだったが、ボコを見つける前に海賊のアジトへと辿り着いてしまった。その辺にいた海賊を締め上げかねない勢いで問いただすと、洞窟内で倒れていた黄色い鳥を保護したと聞き、バッツはたっと、アジトの一室に駆け込んだ。

「ボコっ!!」

バンッ、と大きな音を立て、飛び込んで来たバッツに、ここでの医者的存在であろう白髪の老人と黄色の鳥が驚いたように振り向いた。

「クエ」

目をまん丸にして声を上げるボコに、バッツは駆け寄るとその首に抱きつく。

「よかった……無事で、……本当によかった」

腕が、声が震える。それが、バッツがどれだけボコを心配していたかを物語っていた。

「クエ、クエエ~」

(バッツ、泣くなって)

その声に、バッツはボコから体を離すとキッとボコを睨み付ける。

「泣いてないっ!! というか、この大馬鹿っ! 俺は待ってろって言ったよな?!  何でついて来たんだよっ!」

「クーエッ、クエ、クエクエエ、クエーエッ!」

(それは、バッツが遅いからだろ!)

「そーゆー問題じゃないっ!! 遅かったら森に行けって言ってただろ! お前、何のために俺が置いてったと思ってんだっ!! いー加減に魔物に対する危機感持てっ!」

「クエエエ、クエックエ、クエククエッ!」

(大丈夫だと思ったんだよ、つか、俺の足の速さはバッツも知ってるだろっ!)

「そーゆー問題かっ! 大丈夫とか言って怪我してたら意味無いだろ! それにっ、広い場所でならともかくっ! あんな洞窟で逃げ切れる訳無いだろーがっ!!」

「クーエッ! クエックエックエエックエ!」

(少し失敗しただけだって! 確かに怪我したけど、しっかり、振り切れたんだからなっ!)

「だーかーらー! 何度も言うけど、そーいう問題じゃないっ!!」

ぎゃあぎゃあと続く、人とチョコボのある意味奇妙な口論に老人が目を丸くする中、それに終止符を打ったのは、とある人物の怒鳴り声だった。

「くぉら、バッツーー!!!」
「へ?」

バッツが駆け込んできた時から開きっぱなしになっている戸から、ファリスが怒鳴り込んでくる。その乱入者にバッツが間の抜けた声を返すと同時、ぎろり、とバッツの姿を捉えたファリスの瞳がつり上がり、ファリスはガッと、バッツの首元を乱暴に掴んだ。

「てめぇ、よくも大量の魔物、押し付けてくれやがったなっ」

ファリスの言葉に、バッツはあからさまに目を逸らすと、頬を掻きながら、バツが悪そうに曖昧な笑みを浮かべる。

「……いやぁ、だから先に謝っとくって言ったんだけど……やっぱ、大変だったか」
「当たり前だっ!」

連戦につぐ連戦、いくらそう強くは無い魔物でも、連続で戦えば疲労するし、疲労すれば怪我もしやすくなる。事実、ファリスの体には、避けきれず負ってしまったであろうかすり傷が所々見られる。それに気づき、バッツは一瞬軽く目を見開くと、しゅん、と俯いた。

「……ごめん。俺のせい、だね。その怪我……でも、どうしても、1秒でも早く、ボコを見つけたかったんだ」

眉を下げ、ちらりとファリスの様子を窺いつつ、おずおずとバッツは口を開いた。その叱られた子供のようなバッツの様子に、ファリスは、うっ、と言葉に詰まるとそっぽを向く。

「ま、まぁ、このくらい大した傷じゃねぇから気にしてないけどな。……反省してんなら、これ以上言うこともねぇし……あ、でも、レナとガラフにも謝っておけよ」

ファリスの言葉に、バッツが頷くと同時、ファリスに遅れ、レナとガラフが入ってくる。2人ともファリスと同じようにあちらこちら傷を負っていて、バッツは申し訳なさそうにしゅんと眉を下げた。

「よかった。2人ともここにいたのね」
「ファリス、アジトに着いて早々置いてくんじゃないっ。バッツのこと言えんぞ」

2人の姿を見つけ、レナとガラフがそう声を上げる。ガラフの言葉に、ファリスは頭を掻き、 バッツは2人に謝罪の言葉を口にする。

「あー……悪いな。アジトに着いたら一刻も早く、先走ったバカを締め上げたくなってな」
「……ごめん、2人とも。迷惑かけて……」

バッツの謝罪に、レナは首を振る。

「うぅん、私たちは大丈夫だから気にしないで。それだけ、ボコちゃんが心配だったってことでしょ? ……それよりも、ボコちゃんは?」

そう問うレナに、バッツは1歩横にずれる。そうすることで見えたチョコボの姿に、レナは軽く目を見開いて、ボコの傍に駆け寄った。

「怪我してるっ」
「うん。……やっぱり、洞窟で魔物に襲われたみたいなんだ」

レナの、ボコの傍に歩み寄り、バッツはそう口を開く。バッツの言葉を補足するかのように、白髪の老人が声を上げた。

「洞窟で倒れていたんで、ここに連れてきたんじゃ。大丈夫! わしが見ておるから、安心せい!」

笑みを浮かべ、そう断言する老人に、バッツは深く頭を下げた。

「お願いします」
「任せておけっ!!」

力強い笑みを浮かべ、引き受けた老人に、バッツはほっと微笑する。それと同時、ボコが声を上げた。

「クーエッ! クエックエクエエ?!」

(ちょっとまてっ!もしかしなくても俺を置いてく気か?!)

その声に、バッツは呆れた様な顔をする。

「何言ってんだ。当たり前だろ? 怪我してるのに連れて行けるか」

「クーエクエ、クエエクエっ!」

(このくらい、大丈夫だって言ってるだろっ!)

「大丈夫な訳あるかっ!! 怪我してるって自覚もてっ!」

「ククエクーエクエっ! クエッククエックエッ!」

(大丈夫だっての! それよりも、バッツを1人で行かせられるかっ!)

「今回は1人じゃないし、仮に1人だっても大丈夫だっ!」

「クーエクーエッ! クエッククエックエっ!!」

(そーゆー問題じゃないっ! 俺がいないとすぐ迷うくせにっ!!)

「う……そ、そんなことないもん。前よりはましになったし、それにっ、さっきも言ったけど、今回は俺1人じゃないから大丈夫だってば!」

「……クエ、クーエクエ」

(……口調、幼い頃のに戻ってるぞ)

「っっ!! う、うるさいっ! 元々、ボコが一緒に行くって言うから悪いんだろっ!」

「クーエっ、クエクエっ、クエっ」

(それは関係ないだろっ、とにかくっ、俺も行くからなっ)

「あーもう、しつこいっ! ボコの分からず屋っ!! 絶ーっ対に駄目ったら駄目だっ!」

「ククエクエックエッ! クエクーエク……」

(分からず屋なのはどっちだっ!俺は大丈夫だって……)

怒鳴りあいと言っていい、口喧嘩がふいに止まる。
思わず、途中で口を閉じてしまったボコの眼前には、今の今まで、眉を吊り上げて怒鳴っていた姿から一変、今にも泣き出しそうな程、表情を歪めたバッツがいた。

「……何で、分かってくれないんだよ。俺は、ボコに無理してほしくないんだ。ボコが俺の事、心配してくれるのは分かってる。長い付き合いだもん、ボコが意外と心配性なのはちゃんと知ってる。でも、俺もボコのこと心配なんだってこと、分かってる? 俺はまだ魔物に対抗する力があるからいいけど、ボコはそれがない分、俺よりも危険なんだよ? だから、頼むから……お願いだから、ゆっくり休んで、怪我を治すのに専念してくれ、……絶対に、迎えに来るからさ」

ゆっくりと、懇願するように言葉を紡いだバッツに、ボコはしばし沈黙していたが、観念したように、大きく息を吐いた。

「くーえー……クーエっ、クエ、ククエ、クエクエッ?」

(あーもー……分かったよ。待ってるから迎えに来るの。絶対に忘れんなよ?)

ボコの言葉に、バッツはふわりと笑みを見せる。

「何言ってるんだか、大事な家族で相棒のこと、忘れる訳ないだろ。こっちの事が一段落したら迎えに来るよ、絶対に。そうしたら、また一緒に行こう」
「クエ」

優しく笑ってそう言うと、ボコは素直に頷いた。そんなボコの頭を2,3度撫でてから、バッツはファリスたちの方を振り向く。

「ごめん、お待たせ。ボコも納得してくれたし、行こうか。……って、どうしたの?」

どこか驚いたようにこちらを見ている3人に、バッツはきょとり、として、小首を傾げる。 それにレナが慌てて首を横に振った。

「うぅん、何でもない。それよりも、トゥールに向かいましょう?」

レナの言葉に、ファリスが頷く。

「そだな、んじゃ、先に船に戻ってろよ」

くっと伸びをしながら、トゥールの酒、久々だなぁと呟きつつ、ファリスは他の海賊たちを纏めるべく、部屋の外へと出て行く。トゥールの酒、その言葉に、思わずバッツが動きを止めたのに気づかずに。ファリスに続いて、レナとガラフも部屋を出ようとした所で、動く気配のないバッツに足を止め、振り返った。

「どうしたんじゃ、バッツ」
「……あ~……いや、……何でもない」

思い切り目を逸らし、そうだった、トゥールに行くってことは……と何やら呟ているバッツに、レナとガラフは顔を見合わせる。

「……バッツ?」

本当に大丈夫なのかとレナが声を掛けると、バッツは少し苦笑して頭を掻いた。

「ほんとに何でもないって、ちょっと、やな事思い出しちゃっただけだから……」

もう大丈夫だから、ファリスの言う通り船に乗ってようか、と行って歩き出すバッツに、2人は訝し気に見つつもそれに従う。
バッツたち3人が去った後、ボコは1つため息を落とし、怪我した体を休めるかのように目を閉じたのだった。

  fin

あとがき
……本当は、トゥールの踊り子に続く所まで進めようと思ってたんですけど、 ここで切った方がキリが良いのでここで切りますw
……にしても、今回は物語進んで無いなぁ。 ……まぁ、書いててすっごく楽しかったんですけどw
バッツの手当てとか、バッツとボコのケンカとかww  特にバッツとボコのケンカはもうにまにましつつ書いてましたですよww(怪
というか、何でこの相棒ペアは書いてて楽しいかなーw  バッツとファリスの悪友ペアも楽しいんだけど、こっちもかーなーり、楽しいww
まぁ、私の中でボコはバッツの1番の理解者(鳥?)だったりしますしねーw
あ、あと今回は小説にちょこっと仕掛けを作りましたw
……まぁ、仕掛けっていう程大したものじゃないですけど、ねw
ヒントは反転……ってそのまんまか。まぁ、してみれば分かりますw

……一部妙に行間開いてたのに気付いてくれた人っているのかなぁ?w  と言っても、できるだけ、不自然にならないように気を付けたつもりだったので、 気付いた人が多くてもあれですけど(苦笑
さて、次はよーやく、クリスタル使用法……というか、ジョブチェンジ&水門…… じゃなかった運河突入まで行けるかな?

……できたら、行きたいなぁ……

さーて、ここに気付く人はいるかな?
“仕掛け”はあとがきにも作った……というか、 仕掛け内の話は仕掛け内でって思いましたしねーw
とりあえず、ボコの口調、迷ったのは一人称でした。……つまり、俺にするか、僕にするか。
うん、僕でもいいかなーと思ったんですけどねぇ。 まぁ、結果的に俺になったのは何となく(ぉぃ
ボコにはバッツに対して強く出て欲しかったというのもあるかもですw
うちのボコは何気に結構心配性……というか、 バッツの幼少時を知ってる人って、結構みんなバッツに対して過保護な気がある気が ……気のせいだといいなー(遠い目


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使用素材: 08.06.20

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