「ガラフ!」
曲がり角から、ガラフに向かっていきなり飛び掛ってきた、白く巨大な蛇。ホワイトスネイク、という名の魔物の攻撃を、バッツはガラフを突き飛ばすことで庇い、そのまま攻撃を自身の剣で受け、一瞬、ホワイトスネイクの動きを止める。
「はっ!」
その隙を逃さず、ファリスがホワイトスネイクを切り伏せた。出会ってから、僅かな時間しか経っていないにも関わらず、2人は、抜群のコンビネーションを見せていた。さらさらと灰になった魔物に視線をやってから、バッツは1つ息をつくとガラフの方を向く。
「ふー、サンキュー、ファリス。……ガラフ、大丈夫か?」
咄嗟のこととはいえ、思いきり突き飛ばしてしまったガラフに、バッツは少し心配そうな色を瞳に乗せ、問いかける。
「大丈夫じゃ」
ガラフの返事に、バッツは、ほっと柔らかな笑みを零した。
「そっか、良かった」
この、風の神殿は万一の時のために、侵入者からクリスタルを守るため、クリスタルルームへの道が迷路のように複雑になっている。そのため、曲がり道や分かれ道が多々あり、それによって、自然と死角が増え、今のように、神殿に入り込んだ魔物から不意打ちを受けることが頻発した。にも関わらず、たいした怪我も無くいられたのは、一重にバッツの反射神経のよさとバッツとファリス、2人の戦闘能力の高さのおかげだろう。
(もうそろそろ、だな)
見慣れた道にバッツがそう心の中で呟く。
目の前に現れたのは、何度目か分からぬ分かれ道。バッツが何気なく右のほうへと歩き出したその時、レナが口を開いた。
「ねぇ、バッツ。私、気になることがあるんだけど……」
その言葉に、バッツは足を止め、くるりと振り返る。
「ん?レナ、どうした?」
バッツの顔をひたりと見据え、レナはゆっくりと、神殿内に入ってからバッツを見ていて、生じた疑問を問いかける。
「……なんで、道が分かるの?」
「…………え?」
思わず、きょとんとするバッツに、レナは続けて口を開いた。
「私も、お父様に連れられて何度か最上階のクリスタルルームに行ったこと、あるわ。……それでも、ここの道は複雑で……完全に正しい道を完全に覚えることはできなかった。でも、バッツが選んだ道は……全て行き止まりも、トラップもなかった。…………つまり、“正しい道”だった」
案内役であるレナが分かれ道で立ち止まってしまうたび、バッツはさり気なく、レナよりも先に進んで彼女等を引っ張って行った。現に今も、レナより先に正しい道を選んでいる。
「……そうなのか? 俺はなんとなく選んでただけ、だよ」
苦笑してそう答えるバッツだったが、内心冷や汗をかいていた。
(やっぱ。つい、いつもみたいに進んでたのか……思ったより、慌ててんのかな、俺)
精霊の言葉。風のクリスタルの異変……
それらは無意識のうちに自分を焦らせていたらしい。
「本当?」
(……少し、話した方がいいかもしれないな)
首を傾げて問うレナの言葉に、バッツは内心そう呟くと、1つ息をついてから口を開いた。
「本当だよ。……ただ」
「ただ?」
ふっと、バッツはレナから視線を外すと、すっと前を見る。微かに漂ってくる清涼な風の気配。それを感じながらバッツは再び口を開く。
「こっちの方から、微かに風が……違うな、風ってゆーより、空気の流れ、か。微かにだけど、一際澄んだ空気の流れ、それが感じられたんだ。それでなんとなく、ね」
そう言ったバッツだったが、レナたちが呆気にとられたような顔をしているのに気付き、小首を傾げる。
「……どうしたんだ?」
特に変な事を言ったつもりは全くなかったため、思わず、きょとんとしてそう問うバッツにレナは慌てて手を振った。
「あ、うぅん、何でもない。……バッツってすごいなって思っただけだから」
「……すごいっつーか、変わってるってゆーんじゃねぇ? 普通分かんねぇってそんなの」
ファリスの突っ込みに、幼少時の記憶が脳裏を掠め、内心ひやりとしたが、それを表に出す事は無く、バッツは笑って口を開く。
「空気の変化で天気が変わるとか、分かったりするだろ?それと同じようなものだよ。 ファリスだって、そのくらいなら分かるだろ?」
「んー、まぁたしかに……」
頬を書きながらファリスが答え、そのなんとなく納得したらしい反応に、バッツがほっと胸を撫でおろしたその時、唯一沈黙を保っていたガラフが声を上げる。
「そんな事は後じゃ後! 今は一刻も早くクリスタルの元へ辿り着かねばならんじゃろうかっ!」
その言葉に、レナとファリスもはっとする。
「そうだった、行こう」
「うんっ」
そう言って、今まで立ち止まっていた分を取り返すかのように駆け出したレナ達に、 バッツは苦笑するとその後を追う。 追いながら、バッツは胸のうちに燻ってる何ともいえない漠然とした不安に、僅かに顔を顰めた。
(……そう、さっき、自分で言ったけど、いつも感じる“道標”が、本当に微かにしか感じられない…………何も……起きてなければいいんだけど、な)
***
それから、どれくらい進んだのか、どれ程魔物を倒したか分からなくなってきた頃、見えてきた1つの階段に、レナはパッと顔を輝かせた。
「この上がクリスタルルームだわっ!」
レナはそう言うと、たっと駆け出す。その後に皆が続いたその時。
「伏せろっ!!」
バッツの声が鋭く響き、全員が反射的にその声に従う。刹那、頭上で空気を切り裂く音が聞こえ、顔を上げると、クリスタルルームに続く道に、巨大な鳥が立ち塞がっていた。
鷲のような姿をしているが、羽は赤黒く、バッツたちの背丈より大きい。大きく羽を広げ、戦闘体勢をとった魔物に、逸早く体勢を立て直したバッツは声を上げた。
「来るぞっ!」
その声とほぼ同時、魔物が大きく羽ばたき、カマイタチを引き起こす。
鋭い風の刃が4人全員の体を傷つける。
「っ! ……レナ、ガラフ、ファリス、大丈夫か?!」
キッと強い光を瞳に宿らせ、3人を振り返ることなくバッツは口を開く。既に戦闘態勢に意識を切り替えてるらしく、いつもの穏やかな雰囲気は今の彼にはなく、鋭く研ぎ澄まされた刃のようなそれに変わっている。
バッツの様子にファリスは一瞬目を見開くが、すぐに自身も瞳に強く、好戦的な光を浮かべた。
「誰に言ってんだ。当たり前だろ」
「私も、大丈夫」
「わしも余裕じゃぞ」
3人の返答にバッツは魔物を睨み付けながら、軽く頷いた。
「こいつを倒さないと、先には進めなさそうだ。行くぞ!」
バッツはそう声を上げると同時、たんっ、と地を蹴り、間合いを詰めると魔物に切りかかった。その斬撃を、魔物は爪で受け止め、ガキーンと硬い音が響く。魔物がバッツの攻撃を防いだ直後、ファリスが魔物を切りつける。この神殿内の戦闘で何度も使った手だ。
「くっ、……硬いっ!」
斬りつけ、感じた手ごたえに、ファリスは顔を顰め、そう漏らす。 ヒュン、ヒュン、と空気を切る音が聞こえ、2本のナイフが魔物の体に突き刺さる。 反射的にファリスが振り返ると、レナが次のナイフを構えているところだった。 キィン、と甲高い音を立て、バッツの剣が弾かれる。
宙に飛ぶことで魔物はバッツたちから距離をとった。
「……強い」
「ああ、今までいた奴とは違うようだ」
今までの戦闘なら、これで片がついていた。レナの呟きに魔物を見据えたまま、ファリスが苦い口調で答える。
「……ウィングラプター」
ふいに聞こえたバッツの声に3人の視線が集まる。
「もっと山奥に、たまに現れる魔物で、通常ならばこんなとこには居るはずないんだけど、な」
バッツがそういい終わるのと同時、魔物、ウィングラプターが大きく羽ばたき、強風を巻き起こす。
ザァァァ!!
「きゃあっ!」
「レナっ!」
ウィングラプターの起こした強風にレナが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。それにファリスが駆け寄り、レナを抱き起こした。
「大丈夫か?」
ファリスの言葉に、レナは痛みに顔を顰めつつも口を開く。
「……えぇ、大丈、夫……っ」
「無理するな、きついなら休んでろ」
レナとファリスが一時戦線離脱している間も、バッツとガラフはウィングラプターとの攻防を繰り広 げていた。
ガキィ……ンッ!
ガラフに向かって振り下ろされた爪を、彼は老人とは思えぬ程、軽い動きで避け、目標を失った爪が床を削る。その隙にガラフはウィングラプターの懐に入り込み、自身の拳を叩きつける。が、ウィングラプターを覆う羽は硬く、鋭く、逆に素手であるガラフの手を傷つける。
「素手で戦うのは無茶だ! ガラフはこいつの注意を引いてくれ、俺が何とかするっ!」
ガラフの様子に気付いたバッツはそう声を上げると、キッとウィングラプターを睨みつける。ガラフはバッツの言葉に頷く事で返事を返すと、続け様に放たれたウィングラプターの攻撃を後ろに大きく跳ぶことで回避する。ウィングラプターの意識がガラフに向いているその隙に、バッツは自身の気配を消すと、ウィングラプターの背後に回りこみ、跳躍し、ウィングラプターの背に飛び乗った。
不意に、自身の上に飛び乗ってきた敵を振り落とそうと、ウィングラプターは大きく体を揺らす。が、バッツは左手でウィングラプターの羽を強く掴み、それに耐える。鋭い羽を掴んでいるせいで、バッツの手から血が流れる。いや、彼の手だけではない、ウィングラターの上に乗ってるのだ、それは、無数の刃の上に乗っているのと同意である。
「っ、これで、どうだっ!!」
体のあちこちの服が切れ、血が滲んでいるが、バッツはそれらを完全に無視し、ウィングラプターの動きが弱まったその瞬間、そう声をあげ、思い切り右手に持った剣を突き刺した。
「ギィィィィィ!!!」
その一撃に、ウィングラプターは、断末魔の叫び声を上げると、その体がぐらりと傾ぐ。
「うわっ!?」
音を立て、バッツもろとも倒れたウィングラプターは、そのままさらさらと灰になっていった……
「バッツ!」
「バッツ、大丈夫か?」
レナとファリスが、バッツに駆け寄る。心配そうに問われた言葉に、バッツは苦笑すると立ち上がり、ふわりと笑みを浮かべてみせた。
「大丈夫だよ。まぁ、あちこち傷があるけど、それは皆も同じだし。……俺よりも2人は? 平気?」
何気なく左手を体の後ろに隠しながら、小首を傾げてそう問うバッツにレナはこくりとを頷いた。
「えぇ、大丈夫」
「そっか、よかった」
レナの返答にバッツは、ほっとしたように笑うと、ガラフの方を向く。
「ガラフも平気か?」
「何を当たり前のことを言っとるか!」
「なら良かった。あいつの注意、引いてくれてありがとな」
にこり、と笑ってガラフに礼を言うと、バッツはふとその笑みを消し、クリスタルルームへと続く階段の方に視線を向け、口を開いた。
「……じゃあ、行こうか」
その言葉に、レナとガラフは大きく頷いた。
「えぇ!」
「そうじゃなっ!」
そう言って階段の方へと駆けていく2人の後を追おうとして、ふと、じっとこちらを見ているファリスに気付き、バッツは声を掛ける。
「……ファリス? 行くぞ……?」
レナとガラフ、先行っちゃったし、と言うバッツに、ファリスはふいっと視線を外し、足を進め始める。
「…………そうだな。そっちが先か」
「ファリス?」
きょとんと、ファリスを見るバッツに、ファリスは何でもないと手を振ると、歩きながら親指で階段を指す。
「ほら、さっさと行くぞ。レナたち、先行ってっしな」
「分かってるっ! ……というか、それ、今俺が言ったことだって!」
ファリスの言葉に、バッツはそう返すと2人を追うべく、たっと階段を駆け上がり始めたのだった。
「クリスタルが!!」
クリスタルルームに駆け込んだレナは、目の前に広がる惨状に悲鳴に近い声を上げた。 神聖な部屋の中、中央の祭壇に鎮座しているはずの風のクリスタルが粉々に砕け、周囲に散らばっている。一体何があったのか、部屋の中を見回すが、砕け散ったクリスタルと自分以外は何もない。
……そう、誰も……いない。
「……お父様? ……お父様どこですか?! お父様っ!! 出てきて下さいっ、一体、一体何があったのですか!!」
レナがそう声を上げると同時、ガラフ、ファリス、バッツの3人もクリスタルルームへと駆け込み、そして、目を見開いた。
「なっ……クリスタルが、……砕け散ってる」
信じられないものを見てしまったかのような声でバッツは呟いた。“間に合わなかった”という思いが沸き上がってくる。
……そう、間に合わなかったのだと。
……もっと早く、精霊に示唆される前に異変に気付き、ここに 来なければならなかったのだと。
……何故、自分がそう感じるのか分からぬまま、バッツは唇を噛んだ。
その時、ふわりと、優しい風を感じた気がして、バッツはハッと顔を上げた。
「……なん、だ?」
何気なくファリスたちを見ると、彼らも何かを感じたらしく、ゆっくりと辺りを見回している。
「……暖かい……? ……今のは……火?」
小さく呟いたファリスの声に答えたかのように、ぽぅ、と、どこからともなく淡い赤の光を放つ光球が現れ、ファリスの前で静止する。しかし、それは、ファリスには見えていないらしく、眼前の光球に何の反応も示さずに、不思議そうに、首を傾げている。
「……今の、優しさは……水?」
目を瞬かせ、ぽつりと呟くレナの声に答えるように、ぽぅ、と、どこからともなく淡い青の光を放つ光球が現れ、同じようにレナの前で静止する。そして、これも、レナには見えていないらしい。そうバッツが思ったのと同時、今度はガラフが微かに声を漏らした。
「……この感じ。……これは……土、か……?」
レナやファリスと同じように、ガラフの前にも淡い黄の光を放つ光球が現れ、静止する。
(……この光は、……一体……?)
バッツが内心呟いた、その時、ふわり、と柔らかな風が自分を包み、バッツは軽く目を見開いた。そして、祭壇の上に、ぽぅ、と淡い緑の光を放つ光球が現れ、ふわり、と自分の前に飛んでくる。
「……何?」
「バッツ……?」
不意に、静かに、何かに問いかけるかのように口を開いたバッツに、レナが訝しげにバッツの名を呼んだその時。
「!!」
「なっ?!」
「きゃっ!?」
突然、カッ、と強い光に襲われ、レナたちは思わず目を瞑る。
光が収まった後、恐る恐る目を開け、目にした4つの光球にバッツ以外は軽く目を見開いた。
「この光は……?」
突然、目の前に現れた光球に、レナはそっとそれに触れようとしたその時、ふわり、と4つの光球がバッツ達の周りを回るように飛ぶ。それと同時、頭に不思議な声が響いた。
火の心「勇気」
その声に答えるかのように、淡い赤の光を放つ光球がふわり、とファリスの中に溶け込んでいく。
水の心「いたわり」
同じように、淡い青の光を放つ光球が、ふわりと、レナの中に溶け込む。
土の心「希望」
その声には淡い黄の光を放つ光球が、ガラフの中へ
風の心「探求」
最後に、淡い緑の光を放つ光球が、バッツの中へと消えていく。それと同時、ふわり、と4人の体を何か暖かなものが包み込むのを感じ、4人は戸惑ったように互いの体を見る。
「これ、は……」
「一体……なんだ?」
「……クリスタルの、心?」
「なんだか、暖かいのー」
ガラフの言葉に3人が頷いたその時。
「……レ……ナ……」
背後から聞こえた掠れた声に、全員がバッと振り返る。クリスタルがあったはずの祭壇の上、そこに、1人の男が立っていた。その姿を見てレナが声を上げる。
「お父様っ!!」
「!?」
レナの言葉に、ファリスはバッとレナを見、そして、タイクーン王を見て、あれが……と小さく呟く。
「お父様! 一体何があったのですか?! 何故クリスタルがっ!!」
レナの叫びには答えず、タイクーン王は抑揚のない声で口を開く。その顔は俯いていて窺い知る事はできない。
「よく聞くのだ、お前達は選ばれし4人の戦士……4つの心が宿る者」
「お父様?どういうことですか?」
明らかに様子のおかしい父に、レナはそう問いつつ、近づこうとする。その瞬間、バッツは反射的にレナの腕を掴んでいた。
「駄目だレナ。……何でか分からないけど、でも近づいてはいけない」
直感的に感じたことをバッツは口にする。不意に現れたタイクーン王の姿を見てから、ずっと、何か、嫌な感じがしているのだ。それが、バッツに彼を警戒させていた。そんなバッツやレナに構わず、王は言葉を続ける。
「風のクリスタルは砕け散った。そして、他の3つのクリスタルも砕けようとしている。お前達はそれを守るのだ。邪悪な心が蘇ろうとしている。……全てを……闇に…変える者」
その言葉と同時、ふっとタイクーン王の体が宙に浮かび上がり、黒い霧のようなものに包まれ始める。それを見て、レナは目を見開き、声を上げる。
「お父様っ!!」
咄嗟に父の元に駆け寄ろうとするが、バッツがそれを許さず、その間にもタイクーン王の体は黒い霧によって見えなくなっていく。
「行け、4人の戦士よ、クリスタルを守るのだ……」
そして、その言葉を最後に、タイクーン王の姿は完全に黒い霧に包まれ……ふっと消え去った。
「おとうさまーーーっっ!!」
力の限り叫び、……けれども父の姿はなく、声も返ることはない。そのことに、レナは項垂れる。
「レナ……」
そんなレナから手を離し、バッツはおずおずと声を掛けたその時、きらり、と床に散らばったクリスタルの破片が光を放つ
「……え?」
淡い光を放ちながら、クリスタルの欠片がふわりと浮かび上がり、そのまま4人の体の中に吸い込まれていく。それと同時、ふっと4人の頭に声が響いた。
『言霊を唱えよ。さすればクリスタルに宿りし古の勇者の力、汝らに与えん』
その不思議な声とともに、脳裏に様々な情報が、“力の使い方”が流れ込んでくる。
人を守る力、敵を翻弄する力、人を癒す力、敵を倒す力。
クリスタルに宿っていた力が自身に流れ込んでくるのを感じ、バッツはどこか戸惑ったように口を開いた。
「クリスタルの欠片……俺たちに力を貸してくれるのか?」
まるで、クリスタルが自身の中に解けていくような、不思議な感覚を感じつつ、バッツがそう呟くと同時、ガラフが口を開く。
「これ以上、ここにいてもしょうがないじゃろう。……とにかくここを出よう」
「あぁ、そうだな」
ガラフの言葉に、ファリスとバッツは頷いた。
「そーすっと、またあの通路を歩いていかねぇと、か……」
また、魔物との戦闘をしなくてはいけないのかと、ファリスは1つ溜息をつき、ちらりと、気づかれぬようにバッツの左手に視線を走らせる。が、ファリスの言葉にレナは首を横に振った。
「いいえ。たしか、祭壇の裏に外にワープできる装置があったはず……」
そう言ってから、レナは再び父が消えた祭壇を見、俯くが、すぐに顔を上げる。
「……お父様、クリスタルは守ります。……必ず」
強い決意の光を宿し、呟くように。しかし、しっかりとそう言うと、レナは皆の方を振り返る。
「行きましょう。……クリスタルを、守らなきゃ」
その言葉に、全員が頷き返すのを見て、レナは、こっちよ、とバッツ達をワープ装置のある所に案内する。そして、その装置を作動させると、まず、レナがそれに乗り、ふっと姿が消え、次にガラフが乗り、同じように消える。
「……先に行っていいぞ」
ガラフが消えたのを見届けてから、バッツはそう口を開いた。
「…………そか? じゃあ、先行くぞ」
バッツの言葉に、しばし沈黙してから、ファリスは至って普通にそう言って、装置に乗り、消えた。
それを見送ってから、バッツは背後を振り返り、祭壇を見据えた。
「……いるんだろ? 一体、何があったんだ?」
クリスタルが砕け散った今、そこには何もなく、何もいない。
……いや、何もないように見えた。
『…闇が、目覚めた』
物音1つしない空間で、ふいにそんな声が響く。と同時、ふわり、と長い緑の髪、碧の瞳の14、5才くらいの少女が祭壇の上に現れた。
『人間、闇に囚われた』
『闇、クリスタル邪魔』
ふわり、ふわりとまた2人、5、6才程の少女が現れ、口を開く。
「……今回の、頼みはこれだった訳か」
4つの何か、それの正体がまさかクリスタルだとはなぁ、と呟くバッツに精霊たちは頷く。
『クリスタル……限界。壊すの、とても簡単。闇をとめて』
『クリスタル無くなれば世界死ぬ。世界が死ねば……私たちも消える』
『刻は流れが速く、猶予は少ない。……私たちの願いはあの人間と同じ』
精霊たちの訴えに、バッツは頷いた。
「……分かった。最善を尽くすよ。……次は、守れるように」
静かにそう言葉を紡ぐと、バッツは精霊たちに背を向け、レナたちの後を追うべく、装置に乗り、姿を消した。それを見届けてから、精霊の1人が不思議そうに口を開く。
『何で、クリスタル、力渡した?』
『クリスタル、彼らに祝福した……なんで?』
首を傾げる2人の小さな精霊に、もう1人の精霊が口を開く。
『何故、クリスタルが彼らを選んだかは分からない。……でも』
『『……でも?』』
『クリスタルの祝福はあの方の意思がなければ無理。……だから、あの方は存在している』
その言葉に2人の小さな精霊は目を見開いた。
『あの方……って、そんな』
『本当に……あの方、が……?』
驚いたようにそう口にする2人にもう1人の精霊は静かに頷く。
『えぇ、本当。……この事はとても嬉しい。……でも、今はそれよりも心配な事がある』
『……クリスタル』
ぽつり、と呟くように言った幼い精霊に、他の精霊が頷く。
『目覚めた闇、とても危険。……それに、あの子も』
『うん、……何で、あの方は……クリスタルは……あの子に力、渡したんだろう……』
『あの子に、……クリスタルの力を、渡すのは……駄目、駄目だったのに』
きゅっ、と手を握り締め、顔を曇らせる幼い精霊に、もう1人の精霊はその精霊を抱きしめ、 年長の精霊を見上げた。
『大丈夫かな? ……大丈夫、だよね?』
『大丈夫、……“揃わなければ”覚醒はしない。だから、きっと大丈夫』
不安気に、そう問う幼い精霊に、年長の精霊は安心させるように微笑して、そっと2人の精霊の頭を撫でる。その言葉に、2人の精霊はほっとしたように笑い、そして次の瞬間、3人ともふっとその場から消え去った。
fin
あとがき
前回更新から、かなり日が経ってて申し訳ない^^;
実はこの辺までならかなり前に書けてたんですけどね……本当はもっと先まで書く予 定だった……んだけど、ここで切ったほうが切りがいいことに気づいてここでカット。
……これ以上更新しないのもあれだったしね……
とりあえず……戦闘シーン拙すぎっ、祝福のシーン気にいらないっ(泣
実は、クリスタルの祝福のシーン、少なくとも2,3回は書き直してます。 ……はい、あれでも書き直してるんです(涙
それでも、まだ気に入らない……その内、また書き直すかもなぁ。
そして、今回は、左揃えにしてみました。
使用素材: